本研究は、歯周病原細菌の一つであるFusobacterium nucleatumの硫化水素産生機構を詳細に理解する目的で行われた。口腔細菌の中で、最も硫化水素産生能が高いものの一つとして知られているF.necleatumは、硫化水素産生に関与する酸素としてCdl(Fn1220)だけを有するとされており、また、その反応機構はβC-S lyaseとして働くと考えられていた。本研究において、Fn1220とは異なる新規硫化水素産生酵素としてFn0625を同定し、同酵素を組換え酵素として精製し、その酵素単的性質を解明した。硫化水素産生能はFn1220や従来報告のあるβC-S 1yaseと比較して少なかったが、シスタチオニンを基質にした際のホモシステイン産生能は従来のβC-S lyaseと同等であった。Fn0625の基質特異性は、従来報告のあるβC-S 1yaseとほぼ同じであった。 一方、このβC-S 1yaseはシステインを基質とした場合、硫化水素の他に副産物としてアンモニアとピルビン酸を産生する。しかしながら、Fn1220はシステインを基質として硫化水素を産生するが、アンモニアとピルビン酸を産生しなかった。HPLCによって、その不明の副産物を単離し、質量分析装置によって構造を推定した。その結果、Fn1220はシステインを基質としてランチオニンを産生していることが明らかとなった。Real-time PCR法にて、fnO625およびfh1220の発現量を検討したところ、F.necleatumの対数分裂期において、fn1220はfn0625やhouse-keeping geneと比較して、約5倍以上発現していることが明らかとなった。Fusobacterium属の細胞壁成分はその構成成分としてランチオニンが含まれていることが報告されているので、F.necleatumにおいてFn1220は硫化水素産生酵素としてのみならず、ランチオニン合成酵素として重要であることが示唆きれた。
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