本研究は、歯周病原細菌の一つであるFusobacterium nucleatumの硫化水素産生機構を詳細に理解する目的で行われた。従来F.nucleatumは硫化水素産生に関与する酵素としてCdl(Fn1220)だけを有するとされていたが、昨年度の本研究課題において、Fn1220とは異なる新規硫化水素産生酵素としてFn0625を同定し、同酵素を組換え酵素として精製し、その酵素学的性質を解明した。本年度においては、F.nucleatum由来染色体DNAのコスミドライブラリーを作製し、第三の硫化水素産生酵素をコードする遺伝子であるfn1055を同定した。 fn1055のコードするタンパク質をGST融合タンパク質として大量発現させて、アフィニティーカラムに吸着させた後、融合部位特異切断酵素を利用してFn1055のみを精製し、酵素学的な特徴を明らかにした。Fn1055の硫化水素産生能はFn1220とFn0625の中間であった。従来報告のあるβC-S lyaseとは異なり、システイン以外は基質に対して分解能は確認できなかった。 一方、このβC-S lyaseはシステインを基質とした場合、硫化水素の他に副産物としてアンモニアとピルビン酸を産生する。しかしながら、Fn1055はシステインを基質として硫化水素を産生するが、アンモニアとピルビン酸を産生しなかった。HPLCによって、Fn1055はシステインを分解してセリンを産生していることが明らかとなった。また、Fn1055のアミノ酸配列はシステイン合成酵素のそれと高い相同性を示したが、HPLCによってシステインの産生能は検出されなかった。この所見は、システイン産生能を失った大腸菌のシステイン要求変異株の生育実験によっても証明された。
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