適切な動物実験モデルが作製不可能な歯周炎に関して、ヒトの初代培養細胞を用い、世界で初めて「生体外歯周炎モデル」を確立した。このモデルを用いて、重度歯周炎罹患者の歯肉からアグレッシブ線維芽細胞を分離し、GeneChipシステム(日本大学松戸歯学部)およびreal-time PCRを用いて解析した。その結果、歯周炎原因候補遺伝子を2個まで絞り込むことができた。うち一つはチロシンキナーゼ受容体FLT-1をコードする遺伝子であり、低分子キナーゼ阻害剤の効果を試したところ、コラーゲンゲルの分解は顕著に抑制された。 さらに東大呼吸器内科との共同研究で、アグレッシブ線維芽細胞にFLT-1のmiRNAを導入するRNAiを行って、その効果を検討したところ、コラーゲンゲルの分解は有意に抑制され、これらの遺伝子が歯周炎原因候補遺伝子である可能性が高くなった。 侵襲性歯周炎歯肉由来のアグレッシブ線維芽細胞を用いて、GeneChipシステムを用いた生体外(侵襲性)歯周炎モデル5ペアの解析を行った。その結果、侵襲性歯周炎のアグレッシブ歯肉線維芽細胞を含むゲルに3/5以上共通して高発現している遺伝子は69遺伝子、また、3/5以上共通して低発現の遺伝子が107あり、侵襲性歯周炎は成人性歯周炎とは明らかに異なる遺伝子発現パターンによって引き起こされる、異なった病気であるという可能性を示唆することができた。 また農工大大学院との共同研究で、「生体外歯周炎モデル」の残存コラーゲン量だけではなく、コラーゲンゲルの硬さを押し込み試験によるYoung率で評価するシステムを構築した。 アグレッシブ歯肉線維芽細胞と健常歯肉線維芽細胞の相違が、理化学研究所FANTOM5プロジェクトによって解析され、現在論文投稿中である。アグレッシブ線維芽細胞の成り立ち、すなわち歯周炎の原因究明に一歩近づくことができると考えている。
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