細菌感染症の治療において重要な問題のひとつは薬剤に対する耐性機構であり、そのメカニズムを理解することは正しい治療を行う上でも重要なポイントとなる。これらの耐性機構のひとつにATPトランスポーターによる細胞外への汲み出しがある。本研究では、S.mutansで分離されたバシトラシン感受性株が二成分制御系に支配されるABCトランスポーターによるものであることを明らかにし、さらにその情報伝達経路を解明することを目的とした。 候補の二成分制御系の構成成分であるレスポンスレギュレーター(RR)あるいはセンサーキナーゼ(SK)の遺伝子の一部をエリスロマイシン耐性のカセット(EMカセット)で置き換えたDNA断片を相同組み換えを利用して、RRあるいはSKの欠損株を作製した。これらの欠損株は予想どうりバシトラシン感受性であった。このうちSK欠損株を用いて、バシトラシン曝露後のABCトランスポーター遺伝子の発現をリアルタイムPCRで検討した。その結果、野生株は薬剤曝露後ABCトランスポーター遺伝子は、転写レベルで100倍以上上昇するのに比べ、SK欠損株では全く変化が見られなかった。 次にRR遺伝子をデーターベースを利用してHisタグを持つ発現ベクター上にクローニングし、大腸菌内で大量発現させニッケルカラムクロマトグラフィーで精製した。この精製RRタンパクとABCトランスポーター遺伝子のプロモーター領域と推定されるDNA断片の相互作用をゲルシフトアッセイ法で検討したところ、特異的に結合することが明らかになった。 以上の結果からS.mutansではバシトラシンの刺激をSKが感知し、RRを介してABCトランスポーターの発現を制御していることが推察された。さらにこれを検証するために多くの二成分制御系のRRタンパクに共通に保存されているリン酸化部位のアミノ酸置換を行った。予備実験でこの変異RRタンパク質は上述のプロモーター領域を持つDNA断片に結合しないことがゲルシフトアッセイで示されている。現在、in vivoでのRRタンパクの機能を確認するため、染色体上のRR遺伝子のアミノ酸置換型変異体を作製している。
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