細菌の二成分制御系と連動した薬剤排出機構は抗生物質だけではなく、他の多くの化学物質もその基質としている可能性があり、その正確なメカニズムを解明することは病原微生物の薬剤耐性機構を理解する上で重要である。本研究ではS.mutansで発見されたバシトラシン耐性に関する二成分制御系を検証している。 発現ベクターにクローニングした二成分制御系のヒスチジンキナーゼ(HK)とレスポンスレギュレーター(RR)をHis融合タンパク質として、大腸菌内で発現精製を試みた。膜タンパク質であるHKはinclusion bodyを形成したが、RRは可溶性画分として精製でき、ゲルシフトアッセイでABCトランスポーター遺伝子を含むmbrオペロンのプロモーター領域と特異的に結合することがわかった。 次に、RRとプロモーターの特異的な結合に関与する部位の同定を試みた。PCRを利用した突然変異導入法を用いて、プラスミド上にクローン化したRRの54番目のアスパラギン酸(D)をアスパラギン(N)に置換した変異型RRを作製したところ、これはプロモーターに結合しないことがわかった。さらにin vivoでのこのアミノ酸の役割を検討するために、複製のoriginが高温感受性であるプラスミドを利用して、相同組み換えにより染色体上のRR遺伝子に同じ変異を導入し、変異型RR(D54N)を発現するS.mutansの変異株を作製した。予想どおりこの変異株ではバシトラシンによるmbrオペロンの発現は誘導されず、また野生株に比べバシトラシンに対する感受性が亢進していた。 以上のことからS.mutansのバシトラシン耐性は、HKによるシグナルの感知がRRの54番目のDをリン酸化することでRRのmbrオペロンのプロモーターへの特異的な結合を増強し、ABCトランスポーター遺伝子の発現誘導によるものと推測された。
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