本研究は、歯周病が肝臓における糖代謝や脂質代謝に影響しているとする仮説および肥満に関連した数々の代謝異常と歯周病が相互に影響を及ぼしあっているとの視点を検証することを目的として行っている。既に歯周病関連細菌由来LPSによる各種サイトカイン産生については、様々な報告がされているが、脂肪細胞由来サイトカインであるアディポカインについては数少ない。また、これまで脂肪組織、肝臓のアディポカイン産生についてのLPSの影響はいずれも大腸菌LPSを用いたものであり、歯周病関連細菌由来のLPSで検証されたものはない。我々は、疫学研究において、歯周病患者でアディポカインの一種であるレジスチンの血清レジスチン値が高い傾向にあること、またその傾向は歯肉出血を伴う場合さらに増強することを報告している。そのため本研究では、アディポカインの中でも特にレジスチンに注目し、ヒトマクロファージ系細胞株U937およびHL60、肝細胞株HepG2を用いて、歯周病関連細菌由来のLPS刺激によりレジスチン産生に影響があるかどうか、大腸菌LPS刺激の場合と違いがあるかどうかを検証することとした。まず、P.gingivalisとE.coli由来LPSで各種細胞刺激し、レジスチン産生をELISAにより測定したところ、肝細胞株HepG2では、ほとんどレジスチン産生を認めなかった。ヒトマクロファージ系細胞株U937では、歯周病関連細菌由来LPS刺激によりコントロールと比較してレジスチン産生の増加を認めたが、大腸菌LPSより低い傾向であった。さらに、ヒトより分離された単球を用いると、大腸菌LPSでも歯周病関連細菌由来LPSでも同様にレジスチン産生の増加を認めたため、現在他のサイトカインやシグナル伝達経路について解析を進めている。
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