研究課題
本研究の目的は、わが国の歯科領域の医事訴訟判例を対象として、1)歯科医師の法的責任に関連する要因、特にコミュニケーション要因を特定すること、2)他の診療科と比較検討し、歯科領域の医事訴訟の特徴を明らかにすることである。これまでの研究により医事紛争に至る最大の要因は、医療の質ではなく医療コミュニケーションであること、診療科によって医事紛争の原因が異なることが明らかになっている。欧米ではこの分野における知見は蓄積されつつある。しかし、我が国の歯科領域では医事訴訟が増加傾向にあるが、実証的研究はほとんど見られず、その要因について十分な検討は行われていない。研究初年度の平成21年度は、歯科医事訴訟の判例を分析することによって行うため、判例の収集を行った。具体的には、法学関連の雑誌である「判例時報」、「判例タイムズ」等に掲載されている医事訴訟判例を対象とし、歯科領域である判決は20年間分収集を行った。それと同時に、歯科医師の法的責任に関連すると考えられる要因を変数として設定し、それを基に各判例をコード化し、全判決から成るデータベースを構築した。変数はこれまでの報告を踏まえ、歯科特有の変数の設定を検討し、本研究でとりあげる変数を決定した。収集したデータベースについて分析を行った結果、わが国における歯科医事訴訟において、医師の患者への説明において説明義務が争点となった場合、その治療内容や疾病の種類に関して特徴的な因子が、また説明義務違反と判断された場合、特徴的な歯科医師の説明態様が認められることが明らかとなった。しかしながら、収集した判例数は十分とはいえず、今後さらなる判例の収集、分析を行う予定にしている。
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