研究課題
本研究の目的は、わが国の歯科領域の医事訴訟判例を対象として、1)歯科医師の法的責任に関連する要因、特にコミュニケーション要因を特定すること、2)他の診療科と比較検討し、歯科領域の医事訴訟の特徴を明らかにすること、である。これまでの研究により医事紛争に至る最大の要因は、医療の質ではなく医療コミュニケーションであること、診療科によって医事紛争の原因が異なることが明らかになっている。欧米ではこの分野における知見は蓄積されつつある。しかし、我が国の歯科領域では医事訴訟が増加傾向にあるが、実証的研究はほとんど見られず、その要因について十分な検討は行われていない。平成22年度は、前年度までに、収集した判例数が十分とはいえなかったために、さらなる判例の収集、分析を行った。昨年度に引き続き、法学関連の雑誌である「判例時報」、「判例タイムズ」等に掲載されている医事訴訟判例を対象とし、歯科領域である判決を30年間分収集した。それから、歯科医師の法的責任に関連すると考えられる要因を変数として設定し、それを基に各判例をコード化し、全判決から成るデータベースを構築した。収集したデータベースについて分析を行った結果、わが国における歯科医事訴訟において、説明義務違反が認定されている歯科医事判例は、認定されていない判例と比較してつぎの変数の割合が有意に高いという特徴を有していた。1)障害の程度が永久的である。2)説明の程度が具体的でない。3)説明の有無が争点となっている。4)疾病の種類に関し、不要不急の処置である。5)患者の承諾がない。このような違いを歯科医師が認識することは、医事訴訟の防止や患者満足度向上のために非常に有益であると考えられ、来年度は成果についての発表を行う予定にしている。
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