安全な医療・看護を提供するため、看護基礎教育における卒業前教育としての安全教育の強化が求められている。本研究は、学生の危険予知(予測)能力を高めるための教育方法としてのKYT(危険予知トレーニング)を学内での講義・演習が主たる学習形態である1・2年次の看護技術の講義・演習に組み入れていく方法を検討し、導入の効果を検証することを目的としている。平成22年度は前年度の結果を踏まえ、KYT導入に向けて学生の危険予測の特徴を明確化し、KYT導入の効果を評価・測定する方法論の検討と、前年度に引き続き、危険予知(予測)能力に関係する要因の抽出を行った。 1.1年次生に対して異なる車イス移乗場面のイラスト画を提示した2つのグループで学生の危険予測の傾向を演習前後で比較した。学生は可視化情報に依存した危険を予測し、演習体験によって援助時の基本的原則と異なる事柄に気づくことはできるが、どのような危険事象へとつながるのかまでの思考は困難であった。可視化情報以外にも存在する危険があることを学生に認識させることが必要と考えられた。 2.看護技術の講義・演習にKYTを導入する効果測定のための評価指標の1つとして、学生の安全意識の質的な変化を捉えることを目的として縦断調査を計画した。平成22年度は、科目としての医療安全は展開されていない1年修了時の段階における学生の医療安全に対する考えを自由記述にて調査した。1年次生は、医療安全を医療行為の前提となる最も大切なことと捉え、看護師の医療安全における役割の重要性についても意識している。しかし、看護ケアに潜む危険を予測する力を看護師に必要な能力とした学生は少なかった。これらのことから、ケア内容に潜む危険要因とともに、ケアを実施する段階での危険内容、並びに予防・回避方法を学生に思考させることの必要性とともに、講義・演習における強化項目と考えられた。
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