本研究では、背部温罨法によって適用部位から離れた上肢皮膚温が上昇する現象について、知覚、交感神経経路について明らかにすることを目的としている。本年度は、以下の内容について実施した。1.約60℃の温タオルを用いて10分間の背部温器法(部位:第7頸椎-第4腰椎)を仰臥位で行った。プレテストを行い、背部、前腕内側、前腕外側、上腕内側、上腕外側、手背、手掌、指尖皮膚温を連続的に、血圧、腋窩温を実施前後に測定した。前腕外側、上腕外側の皮膚温は、罨法後に前腕内側、上腕内側よりも急速に下降する傾向があり、上腕、前腕外側は内側に比して皮下脂肪などの割合が大きいことが影響していると考えられ、以降の被験者は前腕、上腕内側で皮膚温を測定した。次に成人健常者(平均年齢21.5歳、女性)20名の背部、前胸部、前腕内側、上腕内側、手背、手掌、指尖皮膚温、血圧、腋窩温を測定した。血圧、体温は署法実施前後の血圧、腋窩温の変化は僅かであり、先行研究と同様の結果が得られた。上肢皮膚温の推移は、罨法を開始して数分後に一旦下降し、数分後に緩やかに上昇に転じ、終了まで上昇を続けた。上腕内側、前腕内側の皮膚温は、罨法終了後30分経過時に安静時と同様の温度へ回復していた。しかし、指尖部および手掌の皮膚温は、実施後30分経過しても安静時より高い状態で維持された。今後は、指尖部の皮膚温上昇に伴い、実際の皮膚血流がどの程度、増加しているかについて皮膚血流も含めて同時に測定し、検討する予定である。2.全身麻酔下の成熟ラットに対し、実体顕微鏡下において、指尖部、手掌の皮膚血管へ逆行性神経標識物質の注入実験を行った。現在、脊髄神経節、交感神経節の標識細胞を顕微鏡下において観察し、手指からの知覚、交感神経経路の検討を進めており、次年度も引き続き実施する。
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