研究概要 |
上肢の力を効率よく発揮することは、臨床現場において身体負担の軽減につながる。今までのボディメカニクスのように物理学の視点からだけでなく、関節角度を変えたときの筋の形状の変化など、身体の構造と生理学的観点に着目し、効率の良い力発揮を検証するために、以下の2つの実験を行った。実験1は、効率よく力発揮できる肘関節角度の検証、実験2は、肩関節角度の挙上と挙上しない状態での一定の筋力維持への影響を観察した。被験者は健康な若齢者男女(22.3±1.8歳)7名。実験1は、肘関節角度を60°,70°,90°,110°,130°,150°に設定し、各角度に固定した状態で、屈曲時と伸展時それぞれの最大随意等尺性収縮MVCを測定した。筋電図を導入し、肘屈曲動作に関連する筋である上腕二頭筋(長頭・短頭)、上腕三頭筋(長頭・外側頭)、腕橈骨筋、三角筋、僧帽筋に電極を装着し、最も力を発揮できている時の筋の活動状況を記録した。実験2では、手首に10kgの錘をつけ、一定時間肘関節角度が90°になるよう維持してもらった。このときも実験1と同じ部位に電極を装着して実験開始直後、15秒後、30秒後の筋の活動状況を記録した。結果は、実験1において、屈曲動作では肘関節角度が90°で最も力発揮できていた。90°に比べ60°と150°は有意(p<0.05)に低くなった。屈曲時の主動筋の上腕二頭筋(長頭・短頭)の筋放電は130°と150°の間に大きな差がなかったのに対して、150°で力の値が極端に下がり大きな差が生じていた。伸展動作では、110°のときに最も力発揮できていた。角度が130°以上になると力発揮の値が下がり、110°との間に有意差が見られ、筋の形状により同じ筋放電の量でも力発揮に大きな影響が出ることが明らかとなった。実験2では、肩を挙上した時の僧帽筋の筋放電が有意に高くなっていた。他の筋で有意差はなかった。上肢を維持するときの主動筋である上腕二頭筋は肩甲骨につながっているため、肩を挙上させることで筋が伸ばされ、効率よく力を発揮できなくなると考えられる。
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