本研究は、日本国内で看護師として働く外国人モスレムの倫理観を、イスラーム諸国の看護の状況を踏まえた上で、イスラーム法の規範との関連から理解し、外国人モスレム看護師を受け入れるための課題と対策を明らかにすることを目標としている。平成21年度は、イスラーム圏における看護倫理に関する議論を知るために、現地語の文献・資料の収集と予備調査を目的として、インドネシアとイランへの渡航を研究計画にあげていた。しかし、インフルエンザの流行と政治的混乱により、インドネシアとイランへの渡航が不可能となった。そこで、現地で活動する研究者等の協力を得て、現地語で出版されているイスラームと医療・看護倫理に関する文献と資料を収集し、その翻訳と読解を集中的におこなった。さらに、近年英語で出版されたイスラーム圏における公共性と倫理、医療と看護の倫理に関する論文や研究書を収集し、文献研究をおこなった。また、細谷がこれまでおこなってきた調査資料のうち、イスラームと看護倫理に深く関係すると思われるインタビューのテープ起こしと翻訳をおこない、内容の理解を深めた。さらに、関係者とのネットワークを広げ、インドネシア人看護師と受け入れ施設に関する情報収集をおこなった。これらをもとに、今後予定しているモスレム看護師とその関係者に対するインタビューガイドを作成した。加えて、日本中東学会、看護倫理学会、イスラームとNGO国際ワークショップで発表をおこない、イスラームにおける医療、看護、介護の倫理に関する議論をもった。その他、外国人看護師問題に関する勉強会や研究会等に参加し、情報収集をおこなった。以上、研究の重要な部分である現地での調査はできなかったが、広く関係文献、資料、学会等での議論に触れることで、外国人モスレム看護師がケアを提供する際に問題となる点を整理することができた。
|