本研究は、日本国内で看護師として働く外国人モスレムの倫理観を、イスラーム諸国の看護の状況を踏まえた上で、イスラーム法の規範との関連から理解し、外国人モスレム看護師を受け入れるための課題と対策を明らかにすることを目標としている。 平成22年度は、イスラーム圏における看護倫理に関する議論を知るために、イラン(5月)とインドネシア(12月)に渡航した。イランでは、イラン医科大学看護助産学部を訪問し、外国人看護師の受け入れと国外への看護師送り出しに関する情報を得た。また、イスラームと看護倫理における議論に関する資料を収集し、帰国後はその読解をおこなった。イランにはインドネシアと異なる宗派を基にした議論があるため、インドネシア人モスレム看護師の倫理観を分析する上で、有用な情報である。 インドネシアでは、イスラームの思想に依拠した看護教育をおこなう私立の看護大学を訪問した。そこでは、各授業の前にコーランの朗誦をおこない看護をイスラームの社会貢献の一つとして位置付ける独自の教育方法を採用している。インドネシアの医療系大学や病院の半数以上は民営の組織である。地域によっては、教育機関や医療機関の多くがイスラーム系団体の組織である。国立大学に進学した学生でも、それまでの教育歴の中で、イスラーム系団体の学校に通い倫理教育を受けた確率が高いと推測される。 国内では、ケア労働者の国際移動について、国を問わず文献研究をおこなった。また他の研究資金を活用して国内の100の病院にアンケートを配布しモスレム看護師の受け入れについて回答を得た。本年度は、2回の現地調査と国内アンケート調査により、イスラームの看護倫理とイスラーム国における看護教育の実際、さらに看護の国際移動と受け入れ側の状況について、より具体的な情報を得ることができた。
|