本研究の目的は、近代以降の日本の大規模災害における医療実践事例を歴史的研究手法により掘り起こし、現代の災害医療の論点とリンクさせることにより、国内外の災害看護に活用できる実践的知識を開発することである。今年度は磐梯山噴火(明治21年)・濃尾地震(明治24年)における災害医療と看護に関する調査を行い、分析の視点を明らかにするため近年の大規模災害における災害医療と看護に関する文献を調査した。 1888(明治21)年磐梯山噴火における医療救護については、調査結果をまとめて学会誌に論文を発表した。この災害では宮内省の申し入れに応じて日本赤十字社の医員3名、帝国大学医科大学のボランティア医員2名、現地の福島県病院関係者数名が医療に携わった。県病院の看護婦2名も派遣されており、災害救護に携わった看護職として写真や記録に残っている点で注目された。外部から医療関係者が訪れたことで、現地の人々の負傷者に対する扱いは確実に変わったと考えられ、またその状況が全国に新聞報道されたことから一般の人々の間でも、たとえ災害であっても人命を大切にすることの価値、負傷した者には手当てを施すことの必要性が伝えられたと考えられた。 濃尾地震・明治三陸海嘯・関東大震災に関する資料調査は現在実施中であり、まとめ次第、発表する予定である。その他、災害医療、災害看護に関する学会やセミナーに参加し、災害時の救命救急を可能とする初期医療の実現のためのDMATの開発状況等を確認した。これらの学会セミナーでの学びは、史料分析の視点として活かしていく予定である。
|