初年度は、アメリカの法看護の概要とその内容を文献及び先行研究により考察し、日本における法看護学確立の必要性を明らかにすることを研究目的としている。そこで、アメリカの判例・法規集や研究論文、関連書物、インターネットを活用し、IAFAやAALNC等の活動状況に関する資料等を収集分析、研究会を実施してきた。犯罪は、社会問題だけでなく健康問題でもある。看護者は直接的な被害だけでなく二次的・三次的な被害を受ける犯罪被害者に対し、長期的継続的なケアを考える必要がある。加えて看護者は、犯罪リスクを健康という側面でアセスメントし、加害者のケアも行うことにより犯罪防止・再犯防止に努める必要がある。1960年代から性犯罪の関係者に対応する看護師の活動が社会的に評価され、法的諸問題に対応できる専門職者として法看護師の存在と役割が注目されている。検視看護師による死者の擁護と犯罪事実を明らかにし社会の安全に寄与することも期待されている。法看護師の存在と実践活動の報告は日本における犯罪増加という社会問題への示唆を与えている。死に至る原因を特定する能力が看護師にあれば、性犯罪、DVや虐待被害等に対象に関わる際、早期のサイン発見と適切な対処・対応という重要な役割を果たすことが期待できよう。もっとも、看護師のこのような役割は、医師の役割とどのように画するかという問題がある。アメリカのベラスケス事件では、性犯罪の被害者の傷の形態と当該傷に至った原因について法看護師が専門家として裁判所で証言する資格の有無が問われた。裁判所は、専門家の見解を表するのは医師だけであるという被告側の主張を退け、法看護師は専門家として裁判で証言する能力と資格を有することを認めた。このことは、法看護師は法科学専門家の一員であることが法的に位置づけられたということである。
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