今年度は、前年度の成果を基に地域にある医療刑務所の担当官、また事件事故に対応する専門家・専門職員が感じている被害者及び加害者側の健康上の問題を抽出し、看護への期待と看護師の実践活動の可能性を分析考察することを目的としている。実際に、医療刑務所治療関係者および事故事件を担当する法律家および実務家の聞き取り調査を行った。結果としていずれも事故・事件の実際の場において看護の必要性を感じることはないが、当事者を病院搬送後に、捜査や調査等の二次的傷害に対処できる看護師による健康管理が必要である、また捜査・調査の際、医療専門職と協力を得るため当事者やその関係者を含めた調整を行う際に、法的問題に対応できる専門的技倆を有する看護師に期待するという答えが得られた。他方、実践にあたる看護師の意識調査を一緒に行うため、地域の基幹病院において看護実践を行っている看護師および看護管理者に対する質問紙による意識調査を行った。調査対象の約2割の看護者が法看護学の存在を知っていたが、6割は全く知らなかったという中で、半数が暴力被害者に遭遇した経験があること、その半数がアセスメントに自信を持てずにいる。また被害者へ積極的に対応したいこと、そのための教育は約半数が看護基礎教育の中で、残りは卒後教育や大学院教育で行うのがよいとする。もっとも、看護提供にあたっては、情報の正しい取り扱い、責任拡大の負担、対象者との信頼関係を損なう、また報復を受けるのではないか等の不安があることも明らかになった。これらの結果から、日本における法看護学の導入という観点からは、看護者は暴力被害者のケアも含まれることをもっと認知すること、そしてそのための知識と技倆に関する教育項目と内容の検討を行うこと、と同時に、実践活動を行う際の不安を払拭するための法制度の検討が必要である。
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