本研究は、難治性のがんと診断され、治癒を目的とした治療を望むことの難しいがん患者とその家族が、主体的に治療の選択を行い、生きることができるような全人的なケアを行うための実践的な看護モデルを開発することを目的とした。具体的には、1)患者・家族の体験、ニーズの明確化、2)専門職者の経験事例や困難事例に関する分析結果をもとに、難治性がんの患者・家族の体験と求められる看護を構造化、疾患の経過に伴う患者・家族の体験に沿った求められる支援内容や支援目標、具体的な患者の体験事例、専門職者の支援体験事例を加えた看護援助論を作成することである。平成23年度は、これまでの患者、看護師に対するインタビューデータを再度分析し、難治性がんの患者・家族の体験と求められる看護を構造化、疾患の経過に伴う患者・家族の体験に沿った求められる支援内容や支援目標、具体的な患者・家族の体験事例、専門職者の支援体験事例を加えた看護援助方法論を明確化した。援助方法論の検討にあたってはP.Bennerの現象学的人間論を基盤とした。難治性がん体験者の6つの語りは、「死が見えてきた時、生き抜く道を探す」「再発を見据え、治療を探し求めて生き抜く」「深刻さにとわられず、過去の病体験を土台に生きる」「自分で生きる意味を探すしかない」「知識を身につけることが生き抜く術」「不透明な中で忍耐強く生きる」という難治性がん・稀少がんの体験を特徴づけるものとして描かれた。看護師の5つの語りからは「予後を越えて生きることを支える」「延命目的の治療を受けること、中止することを支える」「ケアをつなぐ」「患者の苦悩を複雑化する背景を捉える」「再発率の高さ、死への不安を支える」という看護実践が明らかになった。以上より、難治性がん患者への支援においては、彼らが生きていくことに意味を見出し、生とのつながりや結びつきを維持または再建できるように援助すること、そのためには未来への志向性を閉ざし身体に取り込まれてしまった「難治性」の社会的意味、医療者・患者間の時間性の異和について、援助方法論の軸に据えることが示唆された。
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