本研究では、D.Leonard&W.Swap(2005)が提唱するディープスマート理論に基づき、ディープスマートの(1)構築、(2)形成、(3)選別、(4)移転の4段階から、熟練開業助産師から後進助産師への「わざ」伝承の諸相を捉えることを目的とした。 データ収集は、熟練開業助産師3名とそこに雇用されている後進の助産師7名を対象に、まず2回の面接を行い、その後、これまでの分析の結果を示し内容を確認しながら、さらに面接を行うことで真実性を確保した。また、質的研究の専門家のスーパービジョンを得ることで分析の適切性を確保した。 分析の結果、以下のことが明らかになった。後進の助産師は「熟練開業助産師に惚れ込む」ことから助産所の一員となって、熟練開業助産師と場や感覚を共有するようになっていた。さらに、後進の助産師は「熟練開業助産師から現場を任される」ことや、たとえ熟練開業助産師が不在でも「熟練開業助産師が存在しているかのようにできる」と感じることで、熟練開業助産師の卓越した「わざ」が自身に伝承されていると実感していた。 卓越した「わざ」は、[産婦の産もうとする力]と[胎児の生まれようとする力]に助産師が徹底して寄り添うことで、熟練開業助産師や後進の助産師のみならず、産婦や胎児、出産に立ち会う家族をも包含した場において共同的に表出されていた。また、出産終了後に後進の助産師が「熟練開業助産師とともに出産を振り返る」ことで相互に共感的気づきが生じ、熟練開業助産師の卓越した「わざ」が後進の助産師に自然に伝承される場となっていた。
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