2009年8月に中国の山西省医科大学の産科関係部署と山西省児童・婦人病院を視察した。産科では、安全面が強調されるあまりNICU等において母と児を余り接触させない方向であった。母児関係構築や、出産女性の主体性に関して意見交換を行なった。2010年2月、8月に南タイのナコンシータマラート県において病院の産科施設(5施設)における産痛の受容と克服に関してそのケア実践状況を参与観察すると共に、助産師、産科医師に聞き取り調査を行なった。また、村部において以前の出産状況について70歳以上のモータムイエー(伝統的産婆)5人へ聞き取り調査を行なった。村部のモータムイエーは現在医療法により出産介助は禁じられており行なっていないが、村の女性たちに妊娠期の指導や、.産後の授乳の指導を私的あるいは公的に行なっており、私的に不妊の祈祷を行なう産婆も存在する。以前の出産ケアとして特徴的であるのは、火で暖めた石を産後、腹部におき暖めることが回復によいとされており、全員に行なっていたという。産後の子宮復古において非科学的な面も考えられるが、体全体を暖め血行を良くし疲労から回復させるとの意味も考えられた。また以前の出産において産婆は出産中や後において産婦の体全体のマッサージを手だけでなく足も使用し行なっていることが多かったという。このような、伝統的産婆が行なっていた手法は現在では受け継がれている部分はない。また、現在の女性たちは産痛を乗り越えることについて、帝王切開を行なって回避することに拒否的ではない人が多く、帝王切開に拒否的である人は後の創部の痛みを気にしていた。南タイと日本は仏教国でありまたアジアであるが人々の出産、特に産痛を乗り越えるという行為の意味の捉え方が異なるように考えられた。日本の産痛を乗り越えることが一種の通過儀礼的な意味合いを含める人が多いのに比して、南タイでは通過儀礼的な意味あいを含んだ声はほとんど聞かれなかった。
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