南タイでの産科の実態は妊産婦は費用の余裕があれば、帝王切開を行っている例が多いなど、当初予想していた積極的な自然出産のケアのあり方を観察する機会は少なかった。アジアの出産方法の変化が見られ、予想以外の結果であった。アジアが欧米に追随していく傾向が多くある中で、アジアよりも早くに産痛の受容から拒否に変化したフランスの出産医療を調査することで、アジアの医療者や消費者の意識・態度を予測できる側面があると考えた。今後のアジアの出産とケアについて考察するのに参考となる点は多いと考え、南フランスでの調査を2011年3月に行なった。フランスはラマーズ法の(妊娠期から妊婦が呼吸法の練習や精神的なに準備を行なうことで産痛を乗り越える)発祥地であり、日本にも大きな影響を与えてきたが、今日は、集合的な出産施設の中で、硬膜外麻酔分娩が行われており、麻酔分娩で出産している女性が多い。訪問先の南フランスの病院では、年間4500の分娩数があり内、硬膜外麻酔分娩はその85%以上をしめていた.硬膜外麻酔分娩は日本では1%~3%に過ぎず、その差は大きく、背景にある文化的要素、ならびに医療従事者の意識等の異なりが推察され、よって、医療従事者(産科医師、麻酔科医、助産師)と一般の女性にインタビューを行った。フランスはラマーズ法の発祥地であるが、その言葉すらも知らない人が多く、現在は麻酔分娩は二世代目となる人々も多い。自然分娩を行なう人も存在するが極少人数である。助産師の意識は麻酔分娩を行う女性に対して主体性を見いださない人はおらず、特に問題視はしていなかったに。一方、自然分娩を行う人のほうに、やや特殊な人であるイメージを持っているが、問題視はしていなかった。すなわちいずれの方法でも女性の自由選択であることを認識しており、いずれかの方法に誘導的な指導や説明を行なうことは無かった。また産科医、麻酔科医、助産師ともに、麻酔分娩の場合に、麻酔で痛みが軽減されるとともに、分娩時にいきみをかけることができるように麻酔の強度を調整することや、助産師の声かけを重視していた。
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