大都市と地方における3世代に渡る子産み子育て体験の伝承に関する調査により、「親となること」への妊娠女性のニーズを解明することを目的に研究を実施している。 1年目の大阪、京都、北海道の女性に対して妊娠出産・子育てに関するインタビューを実施、2年目のインタビュー分析と、女性に優しい出産をモットーにしている診療所のデータ分析を行った結果をもとに、調査票を作成した。今年度は、妊娠出産・子育て体験は若い世代への伝承がなされていないことと、都市部においては特にそのことが顕著ではないかとの仮説をもとに、インターネット会社を通して、1000名への調査を行った。 妊娠や出産、子育てに関する14項目について聞いた体験と伝承について、(1)21~40歳、(2)41~64歳、(3)65歳以上の3つの世代で分析した結果、(1)の世代は他の世代に比較して、出産場所の選択、陣痛体験、児を産むこと、産後の生活、児の世話、母乳育児等の体験を聞いた得点が有意に高く、子どもたちへの伝承得点も有意に高かった。(2)の世代は妊娠出産体験を聞いてはいるが、伝承得点はほとんどの項目で低い得点であった。3つの世代の中でも(3)の世代はすべての項目において得点は最も低い結果であった。また、(3)の世代では、聞いた体験に比べて伝承得点の方はさらに低率であった。誰から体験を聞いたかは複数回答ではあったが、14項目中の5項目において「実母」を最も多く選択していたが、9項目において「助産師・看護師・教師等の専門家」を選択しており、若い世代ほど「専門家」や「知り合いの女性」を選択していた。また、大都市と地方とに差はなかった。 結論として、仮説は覆され、若い世代の方が体験も聞いていたし、伝承希望も高いという結果は、生活の中で母親から娘へと伝承されていた子産み子育て体験が専門家を介した体験や伝承となっており、現代の伝承のあり方が様変わりしていることが明らかになった。長寿、少産社会において祖母、母、娘の体験や伝承に対する考え方の違いを理解した上で、現代に即した援助のあり方を探ることが今後の課題である。
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