健康リテラシーの概念について内外の文献及び北米の実情を検討し、作業定義として、(1)健康情報、健康サービスを知り、理解できること、(2)情報・サービスを基本的な健康状態を高めるよう活用できる能力を持つこと、(3)科学と疾病予防の原理に基づく理解で知識や態度や行動へ結びつけ、健康に価値をおくことの3要素が抽出された。本邦において、これらの健康リテラシーの概念が子ども、健康教育の場での捉えられ方を把握する目的で、種々の健康教育の場に参加観察、中・高校生を対象とした健康に関するテーマでグループディスカッションを実施した。その結果、子どもの健康の捉え方、保健行動の特性として、(1)自分の健康に対する責任、(2)健康維持増進する方法の実践、(3)疾病予防、病気からの早期回復のための行動をとる、以上についての認識はよくできており、加えて(4)潜在的危険状況への対処行動、(5)他者の健康を尊重、ヘルスプロモーションの実践、(6)健康に関連した情報・製品・サービスの適切な利用にも言及がなされていた。しかし、「インフルエンザ予防」、「薬物汚染防止」、「禁煙教育」等々において、それぞれの個別の健康課題に対しては知識・対処行動を獲得しているが、それが他の健康課題や新たな健康問題や課題へ向けての般化効果少なく、健康価値の向上、科学的根拠に基づく健康行動の選択につながる学習になっていなかった。潜在的危険状況への対処行動、他者の健康尊重・ヘルスプロモーションの実践に関しては、社会全体の健康・環境への関心と健康問題と結びつけての認識は浅い傾向である実情が明らかにされた。また、情報リテラシー、メディアリテラシー、国語リテラシー等の教育と比較しても、現状の健康教育が知識・態度・スキルや行動の獲得に重点を置いており、健康観を基盤とし、科学的根拠を持った知識や行動による対処能力を育てる視点が弱い傾向が認められた。
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