研究概要 |
「産科医療の崩壊」「お産難民」などの言葉が流布し,少子社会でありながら子どもを安心して産めないという昨今の矛盾した社会状況の中,人々は出産に対してどのようなイメージを形成するのか。本研究では,増え続ける産科医療訴訟や深刻化する産科医不足の背景にあって,産科医療の危機的状況を打開する一つの重要な糸口である出産に対するイメージ形成過程に着目し,これを,出産を取り巻く医療や社会の状況と関連づけて分析し,体系づけることを目的とする。 本年度は,日本における出産環境が大きく変化した過去60年間に焦点を当てて,出産に対するイメージやイメージ形成過程に関連するテクストを収集し,分析した。テクストの収集・分析はFairclough(2001/2008)の批判的言説分析の枠組み及びBurr(1995/1997)による言説分析の理解を参考に行った。本研究の実施に先立ち,日本赤十字看護大学研究倫理審査委員会から承認を得た。 結果,出産関連の新聞記事については,1946~2009年に発行された10誌から231のテクストが,妊産婦対象の情報誌については1999~2009年に発行された2誌から1,759のテクストがそれぞれ抽出された。その他,妊産婦対象の書籍,医療・社会学・文化人類学等の専門書,学術論文,専門誌の解説記事,行政発行の文書,出産関連団体の発行物等が収集された。これらのデータを年代別(10年刻み)に整理し,出産のイメージを描写する言説の特定化を行うとともに、諸言説の背後にある社会文化的実践を<出産の場><出産の主な担い手><出産立ち会い人><痛みへの向き合い方><分娩体位><産科学・助産学><産科医療(体制)><産科医療(機器)><新生児・未熟児医療><不妊治療><母子保健施策の変遷><健診・教室><出産に関連した社会現象><人口変動><母性保護政策・法律>のカテゴリーで分析して,【出産イメージの言説形成】の概念図を示した。
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