研究概要 |
本研究は大量定年時代を迎えた現代社会において,ライフイベントである退職が労働者のメンタルヘルスやQOLに与える影響を明らかにし,退職を控えた労働者への適切な健康支援策に結びつけることを目的とするもので,本年度は主に以下の研究を実施した。 1). 後ろ向きコホート調査:対象職場において,定年退職を迎えることによる心身両面への影響を明らかにするため,定期診断項目,生活習慣項目,ストレス関連項目が取得可能であった従業員36名を対象にして,定年退職(60歳)に向かうメンタル・フィジカルヘルス,生活習慣の変化を定年退職5年前と退職年で比較した.結果,定年退職前5年間のメンタル・フィジカルヘルスは,全体としては改善する方向へ変化したが,定年退職までの5年間でメンタルヘルスが悪化する群は,仕事の量的・質的負荷などの職業性ストレスが高く,不適切なコーピングを行う傾向が増加した.以上より,職業性ストレスの減少と適切なコーピング方略の獲得は定年退職を迎える労働者のメンタルヘルスを良好に保つために有効な対策であり,さらにメンタルヘルスとフィジカルヘルスは連動している可能性が示唆された. 2). 質的インタビュー調査:定年に向けての多様な退職準備行動とメンタルヘルスの関連性,定年退職後のライフスタイルの変化の詳細を把握するためにインタビュー調査を実施した.対象は定年を迎える55歳から59歳までの労働者計16名と,完全退職者4名および再雇用者4名とし,半構成的面接を実施した.定年退職を迎えるにあたっての思いと退職準備行動,退職後の思いを自由に話してもらい,対象者の反応を確認しながら経済状況・夫婦・趣味・仕事・友人・地域・ライフワークなどの視点からインタビューガイドに基づいて実施した.結果については現在解析中であり,次年度は,得られた結果に基づき退職予定者に対する質問項目を作成する予定である.
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