全期間の目的:薬物依存症の治療や回復支援に関連する多領域の理論や概念との系統的な検討を行いながら、薬物依存症者への看護の質的変化と看護師の体験に焦点をあてたインタビュー調査を行い、薬物依存症者への看護についての考え方や概念を明らかにしていき、実践的な理論の基盤を構築する。 本年度(2012年度)の実施:昨年度までの個人インタビューの結果をもとに、グループインタビューを実施した。対象者は「薬物依存症者の回復が感じられる看護実践の体験を有する看護職者」とし、同意の得られた9人を参加者とした。インタビューは、5月と8月にそれぞれ3時間実施し、「薬物依存症者への看護に携わってきて、①患者理解、②回復に対する考え方、③看護に対する考え方、④その他、についての変化と変化をもたらしたもの」について質問し、想起されたことを自由に語っていただいた。同意を得て録音したデータから逐語録を作成し、薬物依存症者への看護の質的な変化とその影響要因について分析/解釈した。その結果、参加者たちの語りからは、看護師の多くは薬物依存症者に対するネガティブな感情が大きい傾向にあるが、薬物依存症者の回復を感じられた看護師たちは、自身の努力や他者からのサポートで患者理解を深め、また自身の価値観と向き合い多様な価値観への理解を深め、そのプロセスの中で、看護の質が変化し、それとともに患者との関係性も変化する傾向にあると考えられた。また、看護師は、落ち込み、傷つき、葛藤、といった感情的な困難を体験することも多く、看護師同士や医師といった他者からのサポートの重要性も浮かび上がってきた。 以上のことより、看護実践の基盤としては、病気や患者の理解、看護師の価値観、看護師サポートへの着眼が重要であると考えられた。今後、これまでの研究結果を総合して、薬物依存症者への看護の実践的理論基盤についてさらに検討する予定である。
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