感覚神経細胞が、生体に痛覚を生じさせるレベルの侵害的温度刺激を受容するしくみを明らかにする目的で、以下の実験を実施した。 1、ラットおよびマウス脊髄神経節の培養感覚神経細胞(DRGニューロン)と、HEK293培養細胞発現系において、温度感受性TRPイオンチャネルの温度応答への関与を比較検討した。細胞内カルシウムイメージング法により各細胞応答を観察したところ、侵害的冷受容体とされるTRPA1の活性化剤(マスタードオイル)への応答と冷応答の間の相関は、TRPA1発現HEK細胞では強くみられたものの、培養DRGニューロンにおいては明瞭ではなかった。また、侵害的熱受容体のTRPV2に関しては、両細胞系ともにTRPV2活性化剤(Probenecid)への応答と熱応答との相関は低かった。このように、DRGニューロンにおいてはこれらTRP分子だけでは侵害的な温度の受容には十分ではないことが示唆された。これらのTRPは潜在的には温度感受性に関与する可能性があるものの、感覚神経での温度受容には別のタンパク質、あるいは補助的な因子が必要である可能性が考えられた。 2、冷痛覚を評価する行動実験系として、低温の金属板に一定時間動物をのせた際に、動物が後肢を鋭くひき上げる行動を指標とするコールドプレートテストがよく用いられるが、一般的な測定方法では健常個体での痛み行動の頻度が低く、冷痛覚を適切に評価できていない可能性があった。そこで、温度・測定時間・実験装置の構造等の至的条件を検討した。その結果、プレート温度をマイナス3度、測定時間3分に設定した場合に、適度な痛み行動が観察された。また本法で、持続性炎症を惹起したラットでの冷痛覚の継時変化を観察し、炎症の持続期に冷痛覚の増悪が見られることを示した。この時期の感覚神経細胞レベルでどのような変化が生じているかを調べることで、病態にみられるような冷痛覚悪化のメカニズムを調べることが可能であると考えられる。
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