研究概要 |
痛み受容に関与する侵害受容器において、極端な高温や低温刺激の受容に働くタンパク質や受容メカニズムを明らかにする目的で、本年度以下の実験を実施した。 1, 侵害的低温刺激に関しては、アジュバンド単関節炎モデルラットで、炎症持続期に冷痛覚過敏が見られることを昨年度示した。今回は、この持続性炎症期のラット脊髄神経節細胞において、冷感受性が指摘されているTRPM8とTRPA1イオンチャネルの発現量の変化をRT-PCR法により調べた。両者共に明瞭な変化は観察されず、この冷痛覚過敏は他の機構や他の分子を介している可能性が考えられた。 2, 生体の侵害的高温受容に関しては、高温感受性(約50℃)が指摘されているTRPV2の関与を検討した。既知のTRP阻害剤の中で、TRPV2の熱応答に特異性の高いものを検索するために、異所的にTRPV2を発現させたHEK293細胞において約50℃の高温刺激による活性化電流を阻害する物質を調べたところ、ガドリニウムイオンの抑制効果が最も高かった。そこで、ガドリニウムイオンが、ラット脊髄神経節の初代培養神経細胞の高温応答を阻害するかどうかを検討したところ、やや弱いものの抑制効果が確認され、ガドリニウム感受性の機構の関与が示唆された。しかしながら、本実験で高温感受性が確認できた培養神経節細胞について、TRPV2タンパク質の発現を免疫細胞化学的に調べたところ、その多くが抗TRPV2抗体陰性であり、高温応答とTRPV2タンパク質発現との対応が見られなかった。このように、少なくとも培養神経節細胞の高温応答においては、TRPV2以外に別のタンパク質が関わっている可能性が示唆された。
|