末梢から痛覚情報を伝える無髄のC線維は数種類のペプチドを含有し、特にサブスタンスPやCGRPは痛覚伝達に重要な役割を果たしていると考えられている。C線維が多く終末する膠様質細胞からの記録では、サブスタンスPによって何ら変化が起こらず、これは免疫組織学的な結果とも一致した。そこで、サブスタンスP受容体を発現している第一層のニューロンから記録を行い、後根の頻回刺激によって緩徐なシナプス応答が誘起されるか、また、サブスタンスP投与によって同様の応答が記録されるかを調べ、両者の発生に関与するイオン機序を検討した。さらに、NK1受容体拮抗薬を用い、両者の応答が抑制されるかを調べた。第一層には投射ニューロンと介在ニューロンが存在することから、両者または投射ニューロンで応答が惹起されるかを明らかにするため、中心管の腹側部に単極刺激電極を設置し、逆行性の活動電位の有無によって投射ニューロンであることを同定した後、サブスタンスPの作用を検討した。サブスタンスPと同様、CGRPについても検討を加えた。サブスタンスPによって約20%の細胞に脱分極が観察され、その多くは投射ニューロンであった。得られた応答は膜抵抗の増大によるもので、その逆転電位からカリウムチャネルのclosingによるものと推測された。膠様質細胞では抑制性のペプチド、例えばソマトスタチン、エンケファリン、NPY等は過分極応答を誘起するが、サブスタンプPやCGRPを含め興奮性のペプチドは何ら作用を示さなかった。そこで、第一層の細胞に対しても抑制性のペプチドが何らかの作用を示すかを観察した。今の所、記録細胞数が少ないため結論を出すには至っていない。今後、NK1受容体を発現している深層ニューロンからも記録を行い、投射ニューロンであることを同定した後、サブスタンスPの作用を検討する。
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