末梢から痛みの情報を伝えるC線維は様々なペプチドを含有し、脊髄後角におけるシナプス応答の増強に関与していると推測されるが、その詳細なメカニズムや作用部位については未だ明らかではない。このC線維は後角第1層とII層に入力しているが、II層の細胞からの記録ではペプチドを介する緩徐な応答は記録されていない。そこで、第1層の細胞から記録を行い、後根C線維の頻回刺激によって誘起される緩徐なシナプス応答を解析し、痛覚情報入力に対して如何なる作用を示すか明らかにすることを目的とした。脊髄後角第1層には痛み特異的投射ニューロンが存在していることから、その同定を行いシナプス応答の解析をおこなった。同定には中心管の腹側部に刺激電極を置き、逆行性の活動電位が惹起されることたよって行った。同定した約20%の細胞では後根のC線維頻回刺激によって緩徐な脱分極性シナプス応答が観察され、その持続時間は30秒以上に渡って持続した。同じ細胞にサブスタンスPを灌流投与するとシナプス応答と類似の脱分極が誘起された。また、サブスタンスPの受容体であるNK1の拮抗薬を予め投与すると刺激と灌流投与による緩徐シナプス応答が抑制された。これらの細胞においては後根の単一刺激によって速い経過のEPSPが観察され、この応答は後根のA-deltaおよびC線維刺激で誘起された。そこで、緩徐脱分極電位発生中の細胞の興奮性について検討き行った。先ず、後根のC線維を頻回刺激して緩徐脱分極を誘起し、次に単一刺激誘起のEPSPを重畳させると、EPSPの多くは活動電位を発生させた。CGRPについてはその作用が弱く微小な脱分極が誘起されたのみで、詳細な解析はできなかった。これらの結果から、サブスタンスPを含有するC線維は1層に入力し投射ニューロンに緩徐脱分極を惹起して細胞の興奮性を増大させている可能性が示唆された。
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