神経因性疼痛は、疼痛過敏やアロディニアと呼ばれる異常痛を誘発する難治性疾患である。また、その痛みには有髄A線維の機能亢進が深く関わっていることを明らかにしている。本研究は、有髄A線維の病態における役割を決定づけるために、特に、有髄Aδ線維の新規分子マーカー、Aδ-fiber specific(ADS;仮称)受容体を手がかりとして、神経因性疼痛に関連する分子を同定することを目的としたものである。脊髄後根神経節において、ADS受容体はN52陽性の有髄A線維に高発現している。詳細な解析によりこれらは各種C線維マーカーと共存せず、特に中型のN52陽性細胞に多いことを見いだした。また、ADS受容体リガンドをマウス後肢に皮下投与すると、用量依存的な侵害性応答が観察された。これらの応答は、Gα_sに対するアンチセンスオリゴヌクレオチド処置、またはPKA阻害剤の前処置によって有意に抑制された。一方、坐骨神経部分結紮による神経傷害性神経因性疼痛モデルでは、ADSリガンドによる侵害性応答が顕著に増強していた。このマウスにおいて、ADS受容体の発現増加あるいは異所性発現が認められなかったことから、ADS受容体下流のメカニズムが関連すると推測された。実際に、神経因性疼痛モデルで観察されるADSリガンド誘発性過敏応答はPKA阻害剤の前処置によりほぼ完全に抑制され、逆にPKA活性化剤である8-Br-cAMP単独投与により侵害性応答の増強が再現された。さらに、PKAの標的分子として知られるTRPV1が、神経傷害後、ADS受容体陽性細胞に新たに発現することが明らかになった。以上の結果から、G_s-cAMP-PKA経路が、有髄Aδ線維の機能亢進に関わる細胞内応答であることが証明された。また、その下流分子であるTRPV1は疼痛過敏に関与する候補分子と考えられる。現在、この研究成果について投稿中である。
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