研究概要 |
モルヒネが効かない痛みに対し、欧米諸国ではくも膜下モルヒネ投与法、さらにはバクロフェンによる脊髄GABA_B受容体活性化による鎮痛法(髄腔内バクロフェン療法)が行われている。しかしどちらの方法も持続投与により鎮痛効果が減弱するため、効果を維持するためには濃度を上げて行かざるを得ない。この鎮痛効果減弱には、μオピオイド受容体、およびGABA_B受容体の持続的活性化により脱感作が関与すると考えられている。μ受容体の脱感作にはG protein-coupled receptor kinase 2 (GRK2),GRK3が、GABA_B受容体脱感作にはGRK4,GRK5というキナーゼが関与しており、特に高濃度のリガンドで脱感作が見られる。従って低濃度リガンドの併用(低濃度モルヒネ+バクロフェン)で鎮痛効果が維持できれば、臨床においても脱感作や耐性の発現が少ないと考えた。 (1)クローン化μ受容休、GABA_B受容体、GRK2、GRK4、および内向き整流性Kチャネルを発現させたアフリカツメガエル卵母細胞において、低濃度バクロフェン(1uM)+モルヒネ(3uM)は、高濃度バクロフェン単独(100uM),並びにモルヒネ単独(10uM)で得られた受容体活性とほぼ同程度あるいはそれ以上のKチャネル活性化を示した。これは、低濃度の組み合わせが十分な鎮痛効果を有することを示唆する。 (2)この少量バクロフェン+モルヒネ投与では、高濃度の処置と比較し、受容体脱感作がほとんど起きなかった。 (3)さらに、麻酔薬でありNMDA受容体アンタゴニストであるケタミンとバクロフェン、モルヒネのそれぞれを組み合わせると受容体脱感作はほぼ抑制された。 (4)髄腔内投与による鎮痛の耐性を起こしにくい方法として、低濃度モルヒネ+バクロフェン、さらにバクロフェン+ケタミン、モルヒネ+ケタミン髄腔内投与が効果的な手法として提唱される。さらに詳しいメカニズムを解析していくと共に、動物モデル(ラット疼痛モデル)で検討を行って行く予定である。
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