神経成長因子(NGF)は、感覚神経と交感神経の生存・維持に必要不可欠なはたらきをする神経栄養因子である。NGFは、痛みと痒みに関連する炎症性メディエイターとしても機能する。先天性無痛無汗症(CIPA)は、温覚・痛覚と発汗機能を欠如し精神遅滞を伴う常染色体劣性遺伝性疾患である。その原因はチロシンキナーゼ型神経成長因子受容体TrkAをコードする遺伝子NGF、K1の機能喪失性変異である。患者ではNGF依存性ニューロンである侵害受容ニューロンと交感神経節後ニューロンが欠損する。また、中枢神経ニューロンの一部も欠損すると考えられている。侵害受容ニューロンは、AδとC線維を有し、種々の生体反応をモニターしてその情報を脳に伝えるポリモーダル受容器でもあり、内感覚(interoception)に関与することで、交感神経ニューロンとともに生体の恒常性維持や防御反応に重要な役割を果たす。 水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)は、水痘に罹患した後に、宿主の感覚神経後根神経節に潜伏すると考えられている。その後、宿主の免疫状態に依存して、帯状疱疹を発症することがある。さらに、帯状疱疹後神経痛と呼ばれる神経障害性疼痛を発症することもある。VZVがどのような感覚神経に潜伏するかについては必ずしも明確ではない。興味深いことに、CIPA患者の中には、NGF依存性ニューロンが欠損しているにも拘わらず、帯状疱疹に罹患する例がある。しかし、患者は痛みや痒みの感覚を欠如している。また、帯状疱疹後神経痛もみられない。 以上から、ヒトではVZVが、NGF依存性ニューロン以外の感覚神経へ潜伏して、帯状疱疹や帯状疱疹後神経痛を発症する可能性が示唆される。このことは、VZVが感覚神経に潜伏するメカニズムや帯状疱疹の発症機構を解明する上で、さらに帯状疱疹後神経痛の治療法を考える上で有用な情報を与えてくれる。
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