モルヒネの慢性投与により鎮痛耐性や精神的・身体的依存が形成されるが、がん患者の疼痛治療目的でモルヒネを使用する限り、それらはほとんど生じないことが臨床上明らかにされている。また、動物実験においても疼痛下ではモルヒネの鎮痛耐性や精神的・身体的依存は形成されず、特に精神的依存の不形成メカニズムについては詳細に明らかにされている。しかしながら、鎮痛耐性不形成メカニズムの解明は十分なものとは言えず、身体的依存に関しては全く明らかにされていないのが現状である。そこで、本年度はモルヒネ鎮痛耐性および身体的依存形成に及ぼす炎症性疼痛の影響について検討を行ったところ以下の結果が得られた。 1. モルヒネ0.3nmolをマウスの脊髄クモ膜下腔内へ投与した際の鎮痛作用は、鎮痛測定2日前に30mg/kg、前日に60mg/kgのモルヒネを1日2回皮下投与することにより完全に消失し、鎮痛耐性が形成された。 2. 0.5-2%ホルマリンをモルヒネ反復投与における初回投与の24時間前に足蹠内投与することにより、モルヒネ鎮痛耐性の形成が有意に抑制された。しかしながら、1および2%カラゲニンの足蹠内投与はモルヒネ鎮痛耐性形成に影響を与えなかった。 3. 1%ホルマリン処理は、モルヒネ依存マウスにおけるナロキソン誘発退薬jumping行動には影響を与えなかったが、体重減少および下痢を有意に抑制した。 以上の結果から、ホルマリン疼痛下においてモルヒネ鎮痛耐性および身体的依存の指標となるナロキソン誘発体重減少や下痢が抑制されることが判明した。
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