モルヒネの慢性投与により鎮痛耐性や精神的・身体的依存が形成されるが、がん患者の疼痛治療目的でモルヒネを使用する限り、それらはほとんど生じないことが臨床上明らかにされている。平成23年度までの研究で、モルヒネ鎮痛耐性および身体的依存形成に及ぼす炎症性疼痛の影響について検討を行ったところ、ホルマリン疼痛下においてモルヒネ鎮痛耐性および身体的依存の指標となるナロキソン誘発体重減少や下痢が抑制されることを見出した。また、モルヒネ鎮痛耐性の抑制機構は、モルヒネ反復投与により生じる脊髄でのNOS1APの発現量の増加とそれに伴う一酸化窒素産生の増加がホルマリン疼痛下では抑制されることに起因する可能性を示唆した。 平成24年度の研究で、DNAマイクロアレイ解析を行った結果、腰髄におけるNMDA受容体のNR2AとGluRdelta1サブユニット、AMPA受容体のGluA2サブユニットおよびL型カルシウムチャネルのalpha1Dサブユニットの発現がナイーブマウスと比較してモルヒネ耐性マウスでは顕著に増加し、ホルマリン疼痛下ではナイーブマウスのレベルまで回復することを見出した。これらの結果から、ホルマリン疼痛下におけるモルヒネ鎮痛耐性の抑制機構として、前年度までに明らかにした一酸化窒素の産生抑制に加え、NMDA受容体、AMPA受容体およびL型カルシウムチャネルの活性の抑制も関与している可能性を示唆した。
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