研究課題
神経因性疼痛は神経を含む組織損傷後、傷が治癒した後にも長期にわたり持続する激痛である。その発生機序に大きな役割を担うと考えられる脊髄後角内の神経可塑性を伴う感覚情報伝達系の機能異常に焦点を絞り研究を遂行している。神経損傷という器質的変化に因る神経因性疼痛が一酸化窒素(NO)産生という機能的変化により維持されることを見出した。神経因性疼痛において、ニューロンだけでなくグリアも関与することが明らかにされてきているが、神経前駆細胞が関与しているかは不明であった。幼若ニューロンに発現するnestinは脊髄損傷や脳障害で増加することが知られているが、神経因性疼痛モデルの脊髄後角においても、患側に発現し、細胞増殖の指標である5-bromodeoxyuridine処置でも患側に多く陽性細胞を観察した。Nestinはアストログリアの指標のGFAPやニューロンの指標のNeuNと共局在するものも観察された。また分散培養した後根神経節ニューロンにATPを投与するとNestin陽性ニューロンが増加し、末梢神経損傷による脊髄後角での幼弱ニューロンマーカーのnestin発現増加にはATPが関与している可能性を明らかにした。一方で、mPGES-1ノックアウトマウスでは神経因性疼痛時のミクログリアの活性化が認められないことを抗CD11bおよび抗pp38抗体を用いて明らかにした。ミクログリア一次分散培養を行い、PGE2の効果を調べたところ、PGE2はミクログリアのp38リン酸化を促進せず、ATPによるミクログリア遊走運動活性化を抑制することを見いだした。痛みはニューロンによるゲートコントロール説により説明されているが、そのニューロン回路にミクログリアだけでなくアストログリアや神経前駆細胞がゲートコントロールを修飾していることの一部を明らかにしつつある。
すべて 2010
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