"痛み"自体は、重要な生体シグナルであるが、過剰な痛みや慢性的疼痛は、現在では治療すべき疾患の一つとして認識されはじめている。一方で、その治療において非常に重要な役割を果たしているオピオイド鎮痛薬、特にオピオイド拮抗性鎮痛薬に関しては、未だその作用機序に不明瞭な点が多く存在する。そこで、本研究では、種々のオピオイド鎮痛薬の抗侵害受容作用特性と分子機構を解明することを目的とし、本邦で臨床使用されているオピオイド拮抗性鎮痛薬に焦点を絞り、解析を行っている。本年度は、ペンタゾシンを中心として解析を行い、2種の異なる化学的な痛み刺激に対する抗侵害受容作用の評価を、野生型並びにμオピオイド受容体遺伝子欠損マウスを用いて行った。痛み刺激として、5%ホルマリン後肢足底内投与(体性痛)および0.6%酢酸腹腔内投与(内臓痛)を用いて検討したところ、野生型マウスにおいてペンタゾシンは、体性痛ならびに内臓痛のどちらの侵害刺激に対しても強い鎮痛作用を示していたが、μオピオイド受容体遺伝子のホモ欠損マウスを用いた解析においては、ペンタゾシンの体性痛に対する鎮痛作用は完全に消失していた。一方、内臓痛に対する鎮痛作用は、野生型と比較して減弱は見られたものの、依然として有意な作用が確認され、その作用はκオピオイド受容体選択的拮抗薬を前処置することで消失した。これらの結果はペンタゾシンの抗化学的侵害受容作用の発現にはμオピオイドが主要な役割を果たしているが、内臓痛に対してはμオピオイド受容体のみではなくκオピオイド受容体がその効果の発現の一部を担っていることを示唆している。
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