"痛み"自体は、重要な生体シグナルであるが、過剰な痛みや慢性的疼痛は、現在では治療すべき疾患の一つとして認識されはじめている。一方で、その治療において非常に重要な役割を果たしているオピオイド鎮痛薬、特にオピオイド拮抗性鎮痛薬に関しては、未だその作用機序に不明瞭な点が多く存在する。そこで、本研究では、種々のオピオイド鎮痛薬の抗侵害受容作用特性と分子機構を解明することを目的とし、本邦で臨床使用されているオピオイド拮抗性鎮痛薬に焦点を絞り、解析を行っている。本年度は、ブプレノルフィン、ブトルファノール、ペンタゾシン並びにトラマドールの4種の麻薬拮抗性鎮痛薬に加え、麻薬性鎮痛薬であるモルヒネを比較対照として同時に検討し、鎮痛効果、報酬効果の評価ならびにin vitro解析を行った。競合的結合阻害実験ならびにcAMP assayの結果より、麻薬拮抗性鎮痛薬はいずれもμオピオイド受容体に対し部分作動薬として作用するのに対して、δならびにκオピオイド受容体に対しては、それぞれ異なる活性を有することが明らかとなった。さらに、ヒト型ノルアドレナリントランスポーター(NET)を安定的に発現する細胞株を樹立し、細胞外NE取り込みに対する阻害効果を検討し、トラマドールとその代謝物が比較的高い阻害活性を有することを確認すると共に、モルヒネはNET阻害活性を示さないことを明らかとした。また、熱的抗侵害受容作用の詳細な解析より、麻薬拮抗性鎮痛薬の50%有効量とμオピオイド受容体に対する結合親和性は有意に相関するが、最大鎮痛効果や他のサブタイプへの結合親和性とは相関性を示さないことを明らかとした。これらの結果は、麻薬拮抗性鎮痛薬の抗侵害受容作用の発現にはμオピオイド受容体が主要な役割を果たしていることを示唆している。
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