慢性疼痛時の中枢神経系において、抑制性ニューロンに起こる機能変化に関与する分子機構の解明を目指し、本申請研究では、抑制性シナプス前神経終末部の小胞型抑制性アミノ酸運搬体(VIAAT)とグルタミン酸を基質にGABAを合成する酵素(GAD)に着目した。慢性疼痛時には、末梢からの興奮性入力が増加し細胞外グルタミン酸が増えることから、培養細胞系を用いて、細胞外グルタミン酸の抑制性シナプス伝達に対する影響を検討した。実験にあたっては、抑制性細胞にVenusが発現したラット脊髄から培養細胞を作成し、シナプス前とシナプス後細胞にパッチクランプ法を行って、10秒に1回の頻度でシナプス前細胞を刺激することによりGABA・グリシン伝達を誘発した。細胞外にグルタミン酸を投与すると、GABA作動性抑制性シナプス後電流(IPSC)は著明に増強された。低親和性のGABA受容体拮抗薬の効果から、シナプス間隙におけるGABAの濃度はグルタミン酸により高まったことがわかった。一方、グリシン作動陛IPSCの振幅に対してグルタミン酸は無効であった。しかし、低親和性のグリシン受容体拮抗薬の作用から、シナプス間隙におけるグリシン濃度は低下していることがわかった。以上の結果から、グルタミン酸の取り込みにより、GABA放出は増加し、グリシン放出は減少することがわかった。さらに、GABAによるシナプス伝達とグリシンによるシナプス伝達の違いについて検討した。GABA伝達は高頻度刺激では振幅が抑制されるものの、コントロール時の30%程度を維持した。一方、グリシン伝達は、高頻度刺激中ではほぼ完全に抑制された。従って、細胞外からのグルタミン酸取り込みがGABA伝達を増強する意義は、GADとVIAATの共役を介して高頻度シナプス伝達に際してGABA伝達を維持するためであると考えられた。
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