研究課題/領域番号 |
21601006
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
清水 純 日本大学, 経済学部, 教授 (30192610)
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研究期間 (年度) |
2009-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 台湾原住民 / 写真鑑定 / 鈴木満男 / 博物館 / 日本植民地時代 / 電子化 / 台湾 |
研究概要 |
本研究は、日本統治時代に撮影され、博物館・研究所等で長期にわたって保存されてきた台湾原住民に関する写真資料を探求し、 (1)国内の学術研究機関に保存された写真資料の横断的相互関連付け作業を行い、(2)内容鑑定のための現地調査を通じて情報の質と精度を高め、(3)研究や展示への新たな資料活用方法の開拓を目指すものである。 本年度の研究でも、これまでに引き続き国内調査に加えて台湾での調査、画像・映像資料の発掘と相互比較および鑑定を行なう一方、写真をもとにした聞き取り調査、文献資料の調査を進めた。現地調査では、連携研究者山本が、台湾の博物館や大学等が所有する日本時代の写真資料についての横断的調査を継続して行った。山本は5月の研究会では、パイワン族調査について、3月の研究会では、国立博物館所蔵の原住民写真の調査報告を行った。連携研究者の原は3月に台湾調査をおこない、台東県のアミ族の写真鑑定を行った。また5月の研究会において台東のアミ族の写真鑑定に関する報告を行った。このほか清水は鳥居龍蔵の眉蕃写真に関する研究成果をまとめ、台湾の国立政治大学で開催された台日原住民フォーラムにおいて発表を行い、更に日本大学経済学部紀要に論文を発表した。台日フォーラムでは台北科技大学所蔵の千々岩助太郎撮影写真を参観、確認した。 また、昨年度電子化した鈴木満男博士による台湾の写真・ネガフィルムについて保存版複数を作成した。また、本年度は宮本記念財団所蔵の日本時代のビデオを参観した。また3月の研究会では、山本が制作に協力した北村皆雄氏撮影の台湾原住民の入れ墨に関する動画制作の経緯についての報告があり、また、土田滋教授に日本植民地時代の松山虔三撮影の画像記録についての講演をお願いするなど、新しい知見があった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
植民地時代の写真や動画資料の保存機関及びそこでの所蔵内容が明らかになってきたという点では、当初の計画の通りであったが、これに加えて、1970年代の鈴木満男教授による台湾調査の全写真資料を遺族より寄贈され、本研究費によりデジタル化し、今後の研究のためにあらゆる研究者が自由にその写真データを利用することについて承諾を得ることができた。 また、台北科技大学に寄贈された千々岩助太郎撮影写真、植民地時代の宮本馨太郎等の写真や動画資料、国立博物館所蔵の台湾原住民写真などを直接参観することができた上、これらの画像・映像の保存機関・保存者との情報交換をおこなうことができ、今後の資料の管理や記録の作成についての情報を得ることができた。また、山本は北村皆雄氏の動画制作に協力し、キャプションを付けることに貢献した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は最終年度であり、補充調査をもとに、これまで4年間に解明したことや行った作業について整理し、まとめの報告作成を行う。ただしこれですべて画像資料に関わる調査が完了したわけではなく、今後もさらに研究を進める必要がある。 本研究は将来的には、引き続き日本植民地時代の写真・動画鑑定を、公開されているデータベースを実際に運用する形で行い、さらに、多様な機関や個人に保存されている植民地時代の原住民古写真との横断的情報を収集し、比較研究を進めたい。また、日本と台湾における古写真の所蔵機関との間で、所蔵内容についての横断的な資料収集と研究を進め、画像・映像から更に多くの歴史的事実を引き出し、古い画像・映像が持つ本来の価値を明らかにしたい。 ところで、研究を進める過程で問題点も明らかになった。画像データの所蔵者・所蔵機関によっては、独自に整理解析作業を進めてから公開する等の方針があるため、閲覧や内容の把握などの調査がしにくいこともあった。また、写真の所有権をめぐる問題なども実際に発生しており、そのようなケースでは、部外者が閲覧しにくい状況となっている。これらの問題は当事者が時間をかけて解決すべきであるため、貴重な資料が所蔵されている場合も少なくなく惜しまれる点もあるが、本研究プロジェクトが介入すべきではないと判断した。 それに代わって明らかになったのは、植民地時代より新しい時代の画像・映像資料についても、個人研究者による所蔵状況を調査把握する必要があるということである。とくに、1960年代、70年代以前の写真や動画については、研究者の高齢化や死去に伴って、資料の未整理状態が放置され、散逸や遺族による廃棄処分の可能性が高まるなどの問題があり、今後はこれらの比較的新しい画像資料の保存状況、所蔵状況についてもプロジェクトの課題として積極的に調査を進め、保存の対策を進めるべきであると考える。
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