5月に第10回ダカール・ビエンナーレを調査した。従来同様、市内中心部の二会場を中心に行われた。インスタレーションと写真の作品が多いのは近年の傾向だ。今回は、南アフリカやアルジェリアなどから計3人のキュレーターを択んだために、セネガルと南アフリカ、そして北アフリカのアーティストが目立った。地域的な偏りという課題は残るが、ダカールはいまやアフリカがアートを通して自己を語る場として不動の拠点となっている。 8月には、ドイツを中心にヨーロッパの美術展と博物館、美術館を調査した。とくにドイツでは、現代美術の祭典として知られるドクメンタ13を調査した。ここにもアフリカのアーティストが招かれていたが、計3人、しかもそのうち1人は南アフリカの白人であり、総体的にはアフリカの存在は圧倒的に小さかった。 また2月から3月にかけて、マダガスカル、英、独、仏を調査した。マダガスカルは、アフリカでは珍しく国立の美術学校がない国である。だが、少数ではあるが独学でインスタレーションや写真を表現手段とするアーティストが存在する。ただ、彼らには海外へとつながる回路がない。発表の場が限られてしまっているのである。さらに8月に続いて、ドイツを中心にヨーロッパの美術館と博物館を調べたが、近現代美術館として名高いパリのポンピドゥ・センターでは、常設展示の入り口部分にナイジェリアのエル・アナツイの作品が展示されていた。とはいえ、全体として見れば、アフリカの同時代美術は、美術館よりも博物館、それも民族博物館に展示されていることの方が多い。この点は、アフリカの同時代美術が置かれている位置、また美術という制度を考えるうえできわめて重要であり、今後さらに調査して考察を深めていきたい。以上の調査にもとづき、論文「場の政治学―アフリカの同時代美術はどこに展示されてきたか」をまとめた。さらに現在印刷中の論文が複数ある。
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