本研究は漁労用具や製塩用具などの民俗資料が塩分や塩分に起因する錆によって受ける影響について科学的に明らかにするものである。当該年度は木材サンプルの塩分浸透実験と金属テストパネルを用いた防錆剤の劣化促進試験を行った。木材サンプルは、民俗資料によく使われているスギとヒノキで行った。イオン交換水に90日間浸漬した後、含水率増加が少なくなったので、各段階のサンプル材を飽和食塩水に浸漬した。金属防錆処理法の検証実験は、鉄、銅、トタン、ブリキ、アルミの5種類の金属で行った。防錆剤は、使用実績のある7種類の防錆剤、すなわち、パラロイドB44、B72、BTA、トアインクララック、カルナバワックス、LPS-1、ツバキ油、オリブ油の7種類を、実際の保存処理を考慮して組み合わせた。促進劣化試験は、JIS K5600-7-3耐湿性試験(不連続結露法)に則って、乾湿繰り返し試験(湿:温度40℃湿度100%16時間、乾:温度23℃湿度50%8時間)を1ヶ月間行った。木材試験については、含水率が高い方が、塩分を吸収しやすい結果となった。引き続き、塩分劣化との関連について実験を進め、民俗資料の脱塩処理を実際に行い、検証する。防錆実験については、アクリル樹脂と不乾性油に防錆効果があることが確認できた。変色などの他の劣化についても実験を進め、また、塩分と金属腐食についての検証も行う予定である。
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