研究概要 |
細胞内でのタンパク質等の発現量にはゆらぎがあるために、細胞はそれ自身ゆらいでいる上に、周りの環境もゆらいでいる。本研究課題では、初期発生におけるゆらぎを緩和する機構を調べるため、初期発生の良いモデル系である胚性幹細胞(ES細胞)などを使用し、1細胞で培養、観察しながら様々な変化を与え、細胞の応答を測定するシステムを開発する。揺らぎを定量するためには、培養条件を厳密にコントロールする必要がある。そこで、培地は全て既知の成分で構成される無血清培地を用いている(Furue et al, In Vitro Cell Dev Biol Anim, 2005, 19-28)。ところが、マウスES細胞は通常、未分化維持状態では塊を作るために、細胞間相互作用をコントロールできない。 本年度は、細胞が塊を作るという問題を解決するために、E-Cad-Fcの使用を検討した。E-Cad-Fcは、ES細胞の細胞間接着物質であるE-カドヘリンの細胞外ドメインと抗体IgGのFc部分と融合させたキメラタンパク質であり、これをコーティングとして使用することにより、血清培地中においてはES細胞を分散して培養することができるという報告がある。我々は、無血清培地中であってもマウスES細胞(D3株)をE-Cad-Fc上で塊を作らず分散して培養できる事を確かめました。更に、未分化な時に緑色蛍光タンパク質が発現するよう遺伝子改変されたマウスES細胞(京大より分与。Okita, Nature 448 (2007) 313-7、Figla)を使用し、E-Cad-Fc上で無血清培養することより、単一のES細胞の未分化性(蛍光強度)をタイムラプス観察できる事も確かめた。 以上のように、我々の無血清培養系にE-Cad-Fcを組み合わせることにより、ES細胞の環境を厳密に制御しながら単一細胞の変化を観察できるシステムが構築できた。
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