本研究では、霊長類の進化過程において、未分化細胞に秘められた分子基盤を紐解くことによって、ヒトへの進化過程におけるヒト特異性や遺伝子発現の制御機構を明らかにすることを目指している。具体的には細胞核における核内染色体テリトリー・遺伝子ポジショニングの視点からiPS細胞形成のメカニズムを探り、ヒトと霊長類の種間比較を行うことによって、ヒトに特有な特性を浮き彫りにしていくアプローチである。昨年度に引き続き、霊長類細胞を材料として、センダイウイルスベクターによる遺伝子導入法(CytoTune-iPSシステム)を用いたiPS細胞の作成を試みた。その結果、チンパンジー由来で2つ、ゴリラ由来で3つ、オランウータン由来で1つのiPS細胞の親コロニーが得られた。各コロニーを植え継いで、一部の細胞塊より3D細胞核スライド標本の作製を行い、3D-FISH法による解析に供した。親コロニーの細胞数がまだ十分でないために、現時点でも継続した培養を続けている。3D-FISH法で用いるDNAプローブとして、iPS細胞形成に関わる4因子Oct3/4、Sox2、K1f4、c-Myc及びNanogを合わせた遺伝子領域(6p21.33、3q26.33、9q31.2、8q24.21、12p13.31)のBAC-DNA、並びにこれらの遺伝子領域を含んだ腕特異的な染色体テリトリー領域(6p、3q、9q、8q、12p)のペインティングプローブを調整してあり、昨年度までに実験条件について検討済みである。これらのプローブを用いて、霊長類iPS細胞塊の標本に3D-FISH法を行い、一部の画像データの取得を行った。oct3/4、Sox2、K1f4、c-Myc、Nanogの各遺伝子領域と染色体テリトリー領域の核内配置の基本的特性について、まだ十分に全貌が明らかにできていないが、引き続き解析を進めて考察する予定である。
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