研究課題
ポリコーム(PcG)複合体1が造血幹細胞の活性を支持する分子機構を明らかにする目的で、PcG複合体1によるGemininのユビキチン化に必須な役割を担うScmh1遺伝子の欠損マウスの解析を本年度も引き続き行った。Scmh1の遺伝子欠損マウスでは予想に反して、PcG複合体1の標的のひとつであるGemininタンパク質が安定化せず、造血幹細胞の活性低下は認められなかった。そこで、Gemininタンパク質の分解制御に関わる遺伝子の発現増強を予想して発現解析を行ったところ、Scmh1の遺伝子欠損が造血幹細胞の活性に深く関わるHoxb4とHoxa9遺伝子のmRMAレベルでの発現増強を引き起こすことを昨年度見出した。本年度は、Hoxb4とHoxa9タンパク質がCul4a-Ddb1-Roc1と複合体を形成することを証明して、さらにGemininのユビキチン化を促進して分解を引き起こすことにより造血幹細胞の活性低下を抑制することを新たに見出した。以上の結果から、PcG複合体1によるGemininの分解制御にはPcG複合体1のE3ユビキチンリガーゼによるものと、Hox遺伝子の転写を介した制御の少なくとも2つが存在することが示唆された。造血幹細胞においてHoxb4とHoxa9タンパク質がCul4a-Ddb1-Roc1と複合体を形成してGemininタンパク質の分解制御に関わるという知見はPNAS誌に報告した。今後は造血幹細胞の活性を上昇させてex vivoで増幅させるために、造血幹細胞におけるGemininの発現量を生細胞で検出して自由に操作できる系の開発をPcG複合体1の活性を操作する方法の開発と並行して押し進める予定である。PcG複合体1のE3活性に関わるScmh1の細胞内局在とタンパク質の安定性の制御機構については、Scmh1の中央部分のPESTドメインと核移行シグナルを含む領域がScmh1のPcG小体からの排出と細胞質での安定化に重要であることをあきらかにした。この領域のリン酸化による制御の重要性が示唆されたが、まだそのキナーゼと安定性制御の機構は不明である。リン酸化キナーゼ及び制御機構を今後明らかにして、得られた知見をもとにPcG複合体1の活性を操作する手段の開発を探る。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 備考 (1件)
Proc.Natl.Acad.Sci.USA
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http://home.hiroshima-u.ac.jp/dscb/index.html