消化管α-アミラーゼの阻害は肥満、糖尿病抑制に効果的であるが、酵素がグルコースの連鎖を基質として認識するという特性から、親和性の高い低分子阻害剤がほとんど知られていない。そこで、このα-アミラーゼの基質認識特異性を積極的に利用し、触媒部位阻害ユニットと離れたグルコース認識部位(サブサイト)をリンカーで結んだ分子を設計、合成したところ、リンカー長を適度(Cl2炭素鎖)にとればアミラーゼ阻害物質として成り立つことを前年度までに確かめた。 本年度は、α-アミラーゼの触媒部位近傍のアミノ酸残基について詳細に検討した結果、上流側サブサイトには疎水性領域があり、グルコース以外の疎水性分子が認識される可能性が考えられた。そこで分子計算結果も考慮して、触媒部位阻害ユニットであるデオキシノジリマイシン(D)から上流側にC4リンカーを介して末端に疎水性のベンゼン環をもつ安息香酸エステルを配したところ、弱いながらα-アミラーゼ阻害活性がみられることを見出した。構造活性相関についての知見を得るためにパラ位に電子求引性のフッ素および電子供与性のヒドロキシ基が結合した置換安息香酸エステルを合成したところ、いずれも無置換体よりも活性が低下した。 また、下流側サブサイト部位には塩基性アミノ酸残基があることから、相互作用しうる酸性官能基をリンカー末端にもつ分子としてDの下流側にC8リンカーを介してカルボキシ基をもつ分子を合成したが、酵素阻害活性はみられなかった。 以上の研究結果より、触媒部位結合ユニットの上流側に適当な長さのリンカーを介してサブサイトに認識されるグルコースあるいは疎水性構造単位を結合させた分子は、α-アミラーゼに基質類似物質として認識され、阻害活性を示すことが明らかになった。
|