研究概要 |
植物の光屈性のメカニズムとして、Cholodny-Went説が良く知られており、光側と影側でオーキシンの横移動が起こり、光屈性が誘起されるとしている。一方で、光屈性はオーキシンではなく、光誘導性成長抑制物質が光側で生成され、光側の成長が抑制されることによって引き起こされるという、Bruinsma-Hasegawa説が新たに提唱された。研究代表者らはこれまでにダイコン下胚軸の光屈性制御物質として、4-MTBIおよびRaphanusaninを見い出し、これらの物質はいずれも光屈性刺激によって光側組織において短時間で増量し、影側や暗所下では増量しないことを明らかにした。また、光照射の際に、光側において短時間で加水分解酵素(ミロシナーゼ)の活性が高まることも見い出した。そこで本研究では、4-MTBIやRaphanusaninの蛍光プローブを作製して体内動態を調べる目的で、まずはこれらの化合物の生合成前駆物質であるMTBGの全合成を試みた。1,4-butanediolを出発原料とし、オキシムクロリド体へと誘導し、これとチオグルコースとのチオグルコシデーションを行った。得られたチオグルコシド体についてWittig反応を用いて側鎖を合成し、12行程でMTBGの全合成を達成した。また、改良型ディファレンシャル・ディスプレイRT-PCR法を用いてRaphanusanin誘導性遺伝子をランダムに解析した結果、4つの候補遺伝子が同定され、その内の一つは下胚軸の伸長抑制に関与する可能性が高い因子であり、RsCSN3と命名した。Raphanusanin処理の場合と同様に、RsCSN3遺伝子の発現は光屈性刺激に対しても実際に伸長抑制が確認される刺激開始から数分以内に増加していた。つまり、この遺伝子は光誘導性の下胚軸伸長抑制に関与している可能性が示唆された。
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