オカダ酸結合タンパク質OABP2.1のX線結晶構造解析に成功した。オカダ酸の細胞毒性の標的タンパク質であるタンパク質脱リン酸化酵素とは全く異なる結合様式を示し、クロイソカイメン内におけるオカダ酸耐性機構に化学的な裏付けをすることができた。海洋生物は海洋と言う環境で生き延びていくために様々な自己防御手段を独自に進化させていった。なかでもカイメンの様な固着性動物で多くの共生微生物を抱え、その代謝産物を濃縮しても生存できる根拠の一例が今回示されたこととなる。カルシウム結合タンパク質から疎水性リガンド(オカダ酸)結合能を進化の過程で獲得し、OABP2.1では細胞毒であるオカダ酸を内部に取り込んで安定化し、その毒性を消去することが考えられる。オカダ酸以外にもカイメンなどの海産無脊椎動物はさまざまな生物活性物質(その多くは細胞毒性物質)を濃縮している例が多く、医薬品リード化合物の探索源として注目を浴びている。OABP2.1の構造の保存性が高いことを考慮するとOABP2.1のオカダ酸認識部位を他の細胞毒性物質の形に合わせて調節することで、それらを内部に閉じ込めることで毒性の消去による耐性を獲得している可能性が考えられ、今後海産無脊椎動物の生態の解明への一助になると考えられる。OABP2.1はカリクリンAとは結合しないことがすでに報告されており、カリクリン結合タンパク質が存在するならばおそらくOABP2.1との相同性が高く、内部の疎水性空間が結合する小分子に合わせて進化していったと考えられる。
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