本研究では、近年明らかにされつつある、ヒストンのアセチル化やメチル化などの修飾によるヌクレオソーム構造の制御と遺伝子の活性化及びプロモーター部位の脱メチル化による遺伝子の活性化の機構(エピジェネティック制御)に立脚し、化学生物学的な手法(ケミカルバイオロジー)によって遺伝子の活性化の機構の解明と手法の開発を行う。ピストン修飾酵素によるヌクレオソーム構造の変化とMeCpGの脱メチル化の機構を、DNAナノ構造内に関連する生体分子を導入し、高速原子間力顕微鏡(AFM)を用いて動的な挙動を直接観察し解析する。この知見をもとに、特定のDNA配列を認識し結合するピロールーイミダゾールポリアミドを用いて、エピジェネティックな活性化に寄与する分子を結合した融合分子を設計する。また、特定のターゲット遺伝子の活性化を狙い、これらの分子が細胞中で機能することをその遺伝子の発現と細胞の形態変化(細胞応答)から検討する。 当年度は、ヌクレオソームの構造及びDNA修飾・修復酵素の反応機構を直接観察できる系の構築を行った。DNAオリガミ法によって90x80nmの長方形構造内に40x40nmの中空構造をもっDNAフレーム構造を設計・構築し、再構成したヌクレオソームを導入した。原子間力顕微鏡によってヌクレオソームが構造を保ったままDNAフレーム内に支持された複合体が観察できることが明らかとなった。また、DNAフレーム内に特異的な配列の2本鎖DNAを導入して、修復酵素が結合し反応できる系の構築を行い、高速AFMによってDNAに結合した酵素の動的な1分子測定を行えることが明らかとなった。これらのエピジェネティックな遺伝子の活性化の機構について、知見を得ることで、ポリアミド誘導体の設計に役立てる。
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