我々がフォストリエシンおよびロイストロダクシンBの全合成に用いた、3セグメントのカップリングによる収束型合成経路を活用して合成した、セグメント欠損型およびトリエン構造を飽和炭化水素型にした誘導体を用いてPP2Aの阻害活性を評価したところ、以下の結果および問題点が明らかになった。(1)阻害活性発現には末端トリエン構造は必要で、飽和炭化水素型の方が良い傾向が見られる。(2)既に文献にも報告されているように、PP阻害活性評価の際、その原因の詳細は不明ではあるが、用いる基質によって阻害剤の効果に差が観察され、場合によってはせっかくの阻害活性を見落とす危険性がある。(3)収束型合成経路を用いてできるだけ構造の単純化、合成の簡便化を図っているが、天然物であるフォストリエシンをリード化合物とした場合、やはり合成に手間がかかってしまう。 そこで(1)の結果をふまえて(2)、(3)の問題点を解決するため、フォストリエシンよりもっと単純化した化合物をリード化合物とし、さらに特に(2)の問題点を解決するため、いきなり阻害剤を探索するのではなく、PP1、PP2Aそれぞれに選択的な基質をまず見出だし、その後、リン酸エステル構造の修飾により阻害剤へと改変することを新たに計画した。このような方法をとることにより、阻害剤評価の際に危惧される基質の違いによる阻害活性の見落としがなくなり、しかも簡便な酵素反応でk_<cat>とK_Mの両面から評価できるようになるという利点が考えられる。その結果、現在のところリン酸エステル構造を反応中心構造とする新たな人工基質候補化合物を設計・合成することに成功した。また、同時に市販のリン酸化セリンを含むペプチドを用いて酵素アッセイ系の検討を行い、マラカイトグリーンを用いる簡便なアッセイ系の構築に成功した。
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