メチル基転移反応を触媒する酵素の多くは、S-adenosyl-L-methionine(AdoMet)を補酵素として、DNA、RNA、糖、タンパク質など、生体高分子の様々な部位を修飾する。研究代表者は、tRNAメチル基転移酵素と人工合成AdoMet類似体を用いて、エチル基などの低分子非天然官能基がtRNA分子に高効率で取り込まれることを確認した。メチル基転移修飾は、tRNAの成熟化に必要な様々なヌクレオチド修飾のなかでも、最も基本的な酵素反応である。tRNAメチル基転位酵素は基質tRNAを構造特異的に認識するため、DNAメチル基転移酵素と比べ種類数が多い。そのため、エチル基などの低分子官能基だけでなく、通常は立体障害のため転移が困難と予想される分子量の大きい官能基も、導入の可能性があると考えた。本年度、tRNAメチル基転移酵素を用いてtRNAへ高分子非天然官能基の取り込みを試みるため、メチル基の代わりに、特定の20炭素単位の官能基(GABA)を結合させたAdoMet類似体を化学合成した。tRNAのセントラルコア領域26位のグアノシンを修飾するTrm1メチル基転移酵素を精製して、GABAが、直接にtRNA基質に取り込まれる実例を確認した。さらにtRNAの各領域を修飾する代表的なメチル基転移酵素を4種類選び、同じGABA転移反応を試みた所、2つの酵素で人工官能基がtRNAに取り込まれた。GABA末端に蛍光標識することで、1分子FRET解析に使用できるtRNA分子の準備も出来た。また、メチル基転位酵素の立体構造上の補酵素位置を特定するため、Trm1メチル基転移酵素・AdoMet基質複合体の結晶構造解析に成功した。GABAの嵩高い官能基が、メチル基転位酵素の触媒ポケットにて、どのように立体障害を避けているか分析し、高活性変異体作成のための情報とする。
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